SHOTAI · 第5部 · 第20章 資金管理 ― サイズと破産確率 勝てる場面で資金の大半を入れる ― それが最も確実な破産の作り方だ。
あなたが本当にコントロールできるのは、勝率でも相場でもない。「1回の負けで、口座の何%を失うか」 ――サイズだけだ。相場が当たるかは確率の女神の領分だが、サイズは100%あなたが決められる。破産は 「外し続けたから」起きるのではなく、「外したときに大きく張っていたから」起きる。資金管理とは、当てる 技術ではない。外したときに死なないための設計だ。
この記事のサマリ
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 🎯 学べること |
① ポジションサイズは「勘」でなく一本の式で決まること:サイズ = 口座残高 × リスク% ÷ (損切り幅 × pip価値) ② 1トレードのリスクは口座の1〜2%が標準。なぜ2%を超えると危険なのか ③ 破産確率(リスク・オブ・ルイン)はサイズで決まる――勝率・損益比が同じでも、リスク%次第で生死が分かれる ④ 許容できる最大ドローダウン(DD)から、レバ上限とリスク%を逆算するルール化の手順 ⑤ 当デスクの実装=Portfolio Kelly + Vol Target。個人版はその簡易形=固定リスク%であること |
| 🛠 実技で体験 |
① 自分の口座(任意の例でよい)で、サイズ計算式に数字を入れてロット数を実際に算出する ② リスク%別に「損切り幅 → 建てられるロット」の対応表を自分で埋める ③ 「自分が耐えられる最大DD」からレバ上限とリスク%を逆算してルールを1枚に固定する |
| ✅ 持ち帰り |
① 覚える式は1本:サイズ = 口座残高 × リスク% ÷ (損切り幅 × pip価値) ② サイズは「いくら儲けたいか」でなく「1回の負けでいくら失ってよいか」から逆算するという順序の転換 ③ 自分のリスク%とレバ上限を数値で固定し、破産確率が現実的にゼロに近い領域に居続ける |
この章を一言で
あなたが本当にコントロールできるのは、勝率でも相場でもない。「1回の負けで、口座の何%を失うか」 ――サイズだけだ。相場が当たるかは確率の女神の領分だが、サイズは100%あなたが決められる。そして第3章で 見たとおり、破産は「外し続けたから」起きるのではなく、「外したときに大きく張っていたから」起きる。 資金管理とは、当てる技術ではない。外したときに死なないための設計だ。この章で覚えるのは、たった一個の式だ。
ポジションサイズ(通貨量/ロット)
= 口座残高 × リスク%
─────────────────────────
損切り幅(pips) × pip価値
・口座残高 : 今ある証拠金
・リスク% : 1トレードで失ってよい割合(標準 1〜2%)
・損切り幅 : エントリー〜損切りまでの距離(pips)
・pip価値 : 1通貨あたり1pipの金額
01サイズは「願望」でなく「逆算」で決まる ― 順序を反転させる
多くの人はこう考える――「ドル円を1万通貨買おう」「証拠金がこれだけあるから3万通貨いける」。これは 口座にいくら入っているか(願望)から入る順序で、ここで9割が間違える。
正しい順序は逆だ。「1回の負けでいくら失ってよいか」を先に決め、そこからサイズを割り出す。
❌ よくある順序(願望ベース)
口座残高 → 「これだけ建てられる」 → 建てる → 損切りは後で考える
✅ 正しい順序(逆算ベース)
① 1回の許容損失額を決める(口座 × リスク%)
② 損切り幅(pips)を相場の構造から決める
③ ①と②から、建てられるサイズが自動的に決まる
| 願望ベース(危険) | 逆算ベース(標準) |
|---|---|
| 「いくら建てられるか」から入る | 「いくら失ってよいか」から入る |
| 損切りは建てた後に決める/置かない | 損切り幅が先、サイズは結果 |
| 同じロットで毎回張る(損切り幅は無視) | 損切りが遠い日は小さく、近い日は大きく建つ |
| 一発の負けが口座を破壊し得る | 一発の負けは常に口座の1〜2%に固定される |
サイズは「掛けたい額」ではなく「失ってよい額 ÷ 1単位あたりの危険度」。分子が「許せる損」、 分母が「1ロットあたりどれだけ危ないか」。
この逆算をすると、自然に「損切りが遠い(不確実な)トレードは小さく、損切りが近い(構造が明確な)トレードは 大きく」建つ。サイズが相場の構造に連動する。これが固定ロットとの決定的な差だ。
02計算式を分解する ― pip価値と損切り幅
式の中で初心者が詰まるのは「pip価値」と「損切り幅」の2つ。ここを図で潰す。
サイズ計算式の全体像
pip価値(1通貨・1pipあたりいくら)
pip価値は「1pip動いたとき、1通貨あたり何円の損益になるか」。ドル円(クロス円)では概算で 1通貨 × 0.01円 = 0.01円/pip(1pip = 0.01円のため)。これに通貨量を掛ける。
| 通貨量 | ドル円で1pip動くと | 補足 |
|---|---|---|
| 1,000通貨 | 約 10円 | 最小ロット帯。練習向き |
| 10,000通貨(1万) | 約 100円 | 個人で一般的な単位 |
| 100,000通貨(10万) | 約 1,000円 | 1pipで千円動く=レバに注意 |
ドル円以外(ユーロドル等のドルストレート)はpip価値が為替レート換算で変わる。自分の取引するペアの pip価値は、必ず自分のブローカーの表示で確認する(記入式は §07)。
損切り幅(エントリー〜損切りの距離)
損切り幅は「どこで間違いを認めるか」までの距離(pips)。これは相場の構造(直近安値・高値、ボラティリティ、 サポート)から決めるもので、サイズの都合で決めてはいけない。順序は「損切り幅が先、サイズが後」。
❌ 「3万通貨建てたいから、損切りは10pipsにしよう」
→ サイズの都合で損切りを歪める=逆算の崩壊
✅ 「直近安値の少し下=25pips下に損切り。
ならリスク2%に収まるサイズはいくつか?」
→ 構造で損切り、結果としてサイズが決まる
03実演 ― 数字を入れて解く
抽象式のままでは身につかない。具体的な数字で1回解く。以下は計算の手順を示す例であり、特定の相場水準や リターンを示すものではない。
例:口座10万円、リスク2%、ドル円、損切り25pips
口座残高 = 100,000円
リスク% = 2% → 許容損失 = 100,000 × 0.02 = 2,000円
損切り幅 = 25 pips
pip価値 = 0.01円/通貨(ドル円)
サイズ = 許容損失 ÷ (損切り幅 × pip価値)
= 2,000 ÷ (25 × 0.01)
= 2,000 ÷ 0.25
= 8,000 通貨
→ 建てられるのは 約8,000通貨。
25pips逆行して損切りに当たると、損失は約2,000円=口座の2%。
ここで重要なのは、損切りに当たっても損失が口座の2%に固定されること。サイズはその制約から 逆算された「結果」にすぎない。
損切り幅が変わるとサイズはどう動くか
同じ口座10万円・リスク2%(許容損失2,000円)で、損切り幅だけ変えた表。
| 損切り幅(pips) | 計算 | 建てられるサイズ | 1pipの金額 |
|---|---|---|---|
| 10 pips | 2,000 ÷ (10×0.01) | 20,000通貨 | 約200円 |
| 25 pips | 2,000 ÷ (25×0.01) | 8,000通貨 | 約80円 |
| 50 pips | 2,000 ÷ (50×0.01) | 4,000通貨 | 約40円 |
| 100 pips | 2,000 ÷ (100×0.01) | 2,000通貨 | 約20円 |
これが固定ロット(毎回同じ枚数)との本質的な違いで、固定ロットは損切りが遠い日に勝手にリスクが膨らむ。
04なぜ1〜2%なのか ― 破産確率(リスク・オブ・ルイン)
「リスクは1〜2%」と言われても、なぜそれより上げてはいけないのか。答えは破産確率(リスク・オブ・ルイン =口座を実質的に失う確率)にある。第3章で触れた「破産はサイズで決まる」を、ここで数字に落とす。
破産確率は「勝率」「損益比」「1回のリスク%」の3つで決まる。同じ勝率・同じ損益比でも、リスク%を 上げるだけで破産確率は跳ね上がる。
リスク%別・10連敗したときの残高イメージ
連敗時にどれだけ削れるかの概算(毎回「口座残高 × リスク%」を失う複利計算。教育用の概算であり実際の値動きを 保証するものではない)。
| 1回のリスク% | 10連敗後の残存率(概算) | 失った割合 | 第3章の回復必要リターン |
|---|---|---|---|
| 1% | 約 90% | −10% | +11% |
| 2% | 約 82% | −18% | +22% |
| 5% | 約 60% | −40% | +67% |
| 10% | 約 35% | −65% | +186% |
| 20% | 約 11% | −89% | +809% |
これが「1〜2%」の数学的な根拠だ。勝率を上げる努力より、サイズを下げる決断のほうが、破産確率に効く。 生存が全戦略の上位目的(第3部・第5部の一貫した主題)なのは、ここに根がある。
05許容DDからの逆算 ― レバ上限とリスク%をルール化
サイズの上限は、勘でなく「自分が耐えられる最大ドローダウン(DD)」から逆算して固定する。DDは 「資産が直近ピークからどれだけ落ちたか」。これを先に決めれば、リスク%とレバ上限が自動的に縛られる。
逆算の3ステップ
① 自分が冷静でいられる最大DDを決める 例: 20%
(これを超えたら判断が壊れる、撤退する閾値)
② そのDDに達する「連敗数 × リスク%」を想定
リスク% × 耐える連敗数 = おおよその最大DD
例: 2% × 10連敗 ≒ 約18% < 20% → OK
5% × 10連敗 ≒ 約40% > 20% → NG(リスク%が高すぎ)
③ DD上限を割らないリスク%を採用 → そこからレバ上限も縛る
許容DD → リスク%・レバ上限の逆算表
「10連敗まで耐えてもDD上限を割らない」を基準にした目安(概算)。
| 許容できる最大DD | 推奨リスク%(10連敗基準) | 1回の許容損失(口座10万円) | レバの考え方 |
|---|---|---|---|
| 10% | 約 1% | 1,000円 | 低レバ運用。損切り幅×サイズが小さく収まる |
| 20% | 約 2% | 2,000円 | 標準帯。多くの個人の現実的上限 |
| 30% | 約 3〜4% | 3,000〜4,000円 | 上級・許容度が高い人向け。連敗耐性は要自覚 |
| 40%超 | 推奨しない | — | 回復に+67%超が必要。破産確率が現実的に効く領域 |
レバ上限の縛り方
リスク%を固定しても、損切りを極端に近く置くとサイズ(=レバ)が膨らむ。だからレバ上限を別途 キャップする。
実効レバ = ポジション総額 ÷ 口座残高
例: 口座10万円で 8,000通貨ドル円(@150円) を建てると
ポジション総額 = 8,000 × 150 = 1,200,000円
実効レバ = 1,200,000 ÷ 100,000 = 12倍
ルール例(個人の守りの目安):
・実効レバ上限を 5〜10倍 などに固定
・リスク%(1〜2%)と レバ上限 の両方で二重に縛る
・どちらか厳しい方が発動 → 自動的に小さい方のサイズに
リスク%とレバ上限は両方かける二重のブレーキ。リスク%は「1回の負け」を縛り、レバ上限は 「持っている総量」を縛る。片方だけでは、損切りの置き方やギャップ(第21章テール)で抜けが出る。
06当デスクのやり方 ― Portfolio Kelly + Vol Target(と、その簡易形)
ここが【独】=当デスクの内情だ。個人版の「固定リスク%」は、機関で使う手法の簡易形にあたる。 当デスク(/desk/usdjpy)は、より連続的に2つの軸でサイズを決めている。
概念図:3階層のサイジング
Kelly基準と「なぜそのまま使わないか」
Kelly基準は「期待成長率を最大化する賭け金比率」を与える式で、(勝率p・損益比b なら f* = p − (1−p)/b)の形を とる。理論的には最適だが、当デスクはそのまま使わない。理由は3つ。
| Kellyの理論 | 実務で起きること | デスクの対処 |
|---|---|---|
| 最適成長率を与える | エッジ(p,b)の推定値が外れると過大賭けになる | Fractional Kelly(1/2や1/4に縮める) |
| 単一ベット前提が基本 | 相関するベットを重ねるとリスクが合算され膨らむ | Portfolioで相関込み配分(第22章へ接続) |
| ボラ一定を暗黙に仮定 | 相場のボラは激変する | Vol Targetでボラに応じて常時スケール |
Kellyの最適性は「勝率と損益比が正確に分かっている」前提で成立する。現実のエッジ推定は誤差を持つ (第17章の有意性=Nが足りないと推定が甘い)。だからフルKellyは過大になりやすく、当デスクは 縮小版+ボラ調整+相関考慮で運用する。個人はさらに割り切って「固定リスク%」で十分――その固定%は、いわば Kellyを安全側に倒した定数近似だ。
第3章・第17章との接続
第3章(DD回復の非対称):必要リターン = X/(1−X)。下りは引き算・上りは掛け算。だからサイズで 損を小さく固定することが、複利の谷を浅く保つ唯一の手段。本章のリスク%表(§04)はこの非対称の裏返し。
第17章(統計的有意性):必要サンプル N ≈ (2σ/μ)²。エッジが本物かはNが足りないと分からない。 エッジが不確かなうちはサイズを抑える――Fractional Kellyの思想そのもの。「目視で良さそう」は仮説で あって証拠でない(全体仕様の芯)以上、推定の甘さはサイズで吸収する。
体験 ― 今すぐ手を動かす
読んで終わりにしない。自分の数字でサイズを1回計算するのがこの章の体験だ。任意の例(架空の口座で よい)で構わない。
① サイズ計算の記入式
サイズ計算ワークシート
(A) 口座残高 = __________ 円
(B) リスク%(1〜2%推奨) = __________ %
(C) 許容損失 = (A)×(B) = __________ 円
(D) 損切り幅(構造から) = __________ pips
(E) pip価値(ブローカー値)= ________ 円/通貨
※ドル円は概算 0.01円/通貨
(F) サイズ = (C) ÷ ((D)×(E)) = ________ 通貨
検算: (D)pips 逆行で失う額 = (F)×(D)×(E) = ___ 円
→ これが (C) と一致するか確認
② リスク%別「損切り幅 → ロット」対応表を自分で埋める
自分の口座残高を入れ、各セルに「建てられる通貨量」を計算して埋める。
| 損切り幅\リスク% | 1% | 2% |
|---|---|---|
| 10 pips | ____ 通貨 | ____ 通貨 |
| 25 pips | ____ 通貨 | ____ 通貨 |
| 50 pips | ____ 通貨 | ____ 通貨 |
| 100 pips | ____ 通貨 | ____ 通貨 |
→ この表が「自分のサイズ早見表」になる。トレードの度に計算する必要がなくなり、損切り幅を決めれば 建てる枚数が即決まる。
アクション ― 次の一歩
許容DDからの逆算を「ルール表」として1枚に固定する。これを破らない限り、破産確率は現実的にゼロ近傍に保たれる。
① 自分の守りのルールを数値で固定する(記入式)
| 項目 | 自分のルール(記入) |
|---|---|
| 耐えられる最大DD(撤退閾値) | ____ % |
| 1トレードのリスク%(DDから逆算) | ____ %(1〜2%推奨) |
| 実効レバ上限 | ____ 倍 |
| 1回の許容損失額(口座×リスク%) | ____ 円 |
| サイズの決め方 | 損切り幅が先 → 式で逆算(固定ロット禁止) |
| ルール変更の条件 | レジーム転換/検証で更新時のみ(連勝・連敗での裁量変更は禁止) |
② 当デスクのサイジング思想を観察する
当デスクの寄り付き前レジーム(/desk/usdjpy)を見るとき、方向(bias)だけでなく 「どれだけのリスク量で張っているか」に注目する。ボラが高い局面でサイズを縮める(Vol Target)、複数ベットの 相関でヒートを管理する(第22章ポートフォリオへ接続)――この連続的な調整が、個人の「固定リスク%」の上位互換だと 体感する。
サイズ = 口座残高 × リスク% ÷ (損切り幅 × pip価値)。そして「サイズは儲けでなく 1回の負けの上限から逆算する」。破産確率はサイズで決まる。これだけ持って次へ。
この章の「サイズは1回の負けの上限から逆算する」を、いまの市場で見てみよう。ドル円デスクは、 方向(bias)だけでなく、ボラに応じてリスク量を調整する連続的なサイジング(Vol Target / Portfolio Kelly)を 毎営業日ライブで動かしている。「どれだけの圧力差で、どれだけのリスク量を張っているか」を読む練習に使ってほしい。
→ ドル円デスクを見る