LEARN · 第0部 · 0-2 すべてはつながっている ― 相場を貫く一本の川 あなたがドル円を見ている間、ドル円を動かすものはチャートの外で流れている。
為替も株も金利も別々の市場だ ―― そう思っているなら、あなたは地図を持たずに山へ入っている。 流動性・金利・為替・株は、ひとつの川としてつながっている。前章で「価格は圧力差で動く」と知った。 では、その圧力はどこから来るのか。答えは、4つの市場を上流から河口まで貫く一本の川にある。 この章で渡すのは、本書全体の地図そのものだ。
01あなたは、一つの市場だけを見て溺れている
ドル円が動いた。あなたはドル円のチャートを見る。テクニカルを引く。だが、その値動きを実際に作ったのは、 多くの場合ドル円の外だ ―― 米国の金利が動き、世界のお金の量が変わり、株が崩れ、その全部が 為替に流れ込んでいる。一つの市場だけを睨むのは、川下で水位の変化に驚いて、上流のダムの放流を知らないのと同じだ。 プロが個別チャートより先に「全体の地形」を見るのは、ここに理由がある。
02一本の川 ―― 上流から河口まで
本書は、4つの市場を一本の川として描く。これが全18章を貫く縦串だ。
- 上流=流動性(お金の総量)。すべての水源。ここが増減すると、下流の全部が動く。
- 水位=金利(お金の値段)。水量が変われば、まず水位が決まる。
- 渦=為替(二国の水位差)。水位の高い側から低い側へ水が流れる。為替は2つの国の水がぶつかる合流点だから、その流れは渦を巻く。
- 河口=株。一番下流で、上流すべての変化を最後に受け取る。
03なぜ「上流から」なのか ―― 水は低きに流れる
川に向きがあるように、この連関にも向きがある。お金は、割に合うリターンのある場所へ流れる ―― 同じ儲けなら、より安全な方へ。 水が低きに流れるのと同じで、これは誰かが決めたルールではなく、ただの力学だ。だから上流(お金の量)が増えれば、 水はまず金利を押し下げ、次に金利の低い通貨から高い通貨へ流れ、最後に株という河口を満たす。順番がある。
ここで一つ、プロが上流に置く“隠れた水源”を渡しておく。ドルの調達コストだ。世界の借金の多くはドル建てで、 ドルを調達する難易度(専門的には「クロス通貨ベーシス」)が上がるとは、ドルが希少になるということ。ドルを借りて 他の資産を持っている世界中のプレイヤーが、調達コストの急騰で保有を投げ売る ―― その結果、ドル全面高とキャリーの巻き戻しが、 株が崩れるより先に為替や新興国市場に現れる。事実、2008年も2020年3月も、ドル調達ストレス(ベーシスやドル指数)は 株価の急落に先行した。ニュースに「ドル不足」と出る頃には、為替はもう動き終えている。為替は株の“結果”ではなく、 しばしば株より上流の“予兆”なのは、この水源があるからだ。
04鎖はどこで切れるか ―― つながりは昔より密で、速い
では、この連関は今も昔も同じか。本書が毎章ぶつける問いだ。連関そのものは普遍だが、その密度と速度は この20年で大きく変わった。なぜ変わったのかを、三層で見る。
為替・株・金利・商品は別々の市場で、それぞれの専門家が別々に分析する。連動は「たまに起きる例外」。
連動は例外ではなく常態になった。似たリスク管理(ボラ・ターゲティング勢=リスクパリティ等と、VaR制約で一斉に手仕舞う運用)で同じ機関が全資産を横断保有し、CTAやパッシブが機械的に連動売買する。だから一つが動くと、関係ないはずの資産まで秒で一緒に動く。上流にはドル調達コストがあり、為替・新興国を株より先に縛る。
なぜ:ボラ・ターゲティング勢の普及、パッシブ運用残高の爆発、そしてグローバルな借金がドル基軸で組まれていること。市場の配管が共通化した。
お金は、より高いリスク調整後リターンへ流れる。水が低きに流れるのと同じで、この向きは市場が機械化しても変わらない。
05この地図の使い方
これから先、新しいニュースや値動きに出会うたび、まず問うのは「これは川のどこの話か」だ。中央銀行の利上げは水位、 円安は渦、ハイテク株の急落は河口 ―― 位置が分かれば、上流に何が起きたか、下流に何が来るかが読める。本書はこの川を、 源流の流動性(第2部)から河口の株(第4部)まで、上から順に下っていく。
最後にもう一つ。前章で渡した「重力(中心回帰)」と「圧力(トレンド)」の2つの力は、この川のあらゆる場所で働いている。 終章でこの2つが正体を現すまで、頭の隅に置いておいてほしい。 ―― では、この川に乗りさえすれば、必ず儲かるのか? 残念ながら、答えはノーだ。次章で、その理由を“数学”で突きつける。
この川の全景は、トップのワールドモニターがそのまま見せている。資本がどこへ引き寄せられ(上流の水量)、 どの地域が過熱し、リスクがどこに溜まっているか ―― 4つの市場の“今の地形”が一枚で見える。この章の地図を、 実際の世界地図の上で確かめてほしい。
→ ワールドモニターで全体の地形を見る