SHOTAI · 第5部 · 第22章 ポートフォリオで見る ― 相関とヒート ドル円・ユロドル・金を3つ持つことは、1つの大きなドルの賭けかもしれない。
あなたが「3つの別々のトレードを持っている」と思っているとき、実際には「1つの賭けを3倍のサイズで持っている」 ことがある。相関したポジションは、リスクが独立に足し算されず、合算(または相殺)される。だから守りの管理単位は、 トレード1本ではなく口座全体のヒート(実効リスク)だ。
この記事のサマリ
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 🎯 学べること |
① 相関したペアはリスクが合算される(独立して足し算されない) ② ドル円・ユロドル・ゴールドが同じ「ドル要因」で動きがち=見た目は3つでも中身は1つの賭け ③ 管理単位は「トレード単位」でなく口座全体のヒート(実効リスク) ④ 相関の符号で実効リスクは増えも減りもする(分散の数式) ⑤ 第20章(サイズ)・第21章(テール)を口座全体へ拡張する考え方 |
| 🛠 実技で体験 |
① 保有候補ペアの相関を確認し、同方向の相関ポジを1つの大きな賭けに合算する記入式 ② 口座全体のヒート(同時に晒す合計%)を集計するメーター記入式 ③ 相関の重複を避けるポートフォリオ・ルールを1枚で言語化 |
| ✅ 持ち帰り |
① 覚える核:相関=+なら実効リスクは合算、相関=−なら相殺。見るのはトレードでなく口座全体のヒート ②「3ポジ持っている」と「1つの賭けを3倍で持っている」を取り違えない ③ 自分のポートフォリオ・リスク上限(同時合計%)を数値で固定し、相関の重複を避けるルールを運用に入れる |
この章を一言で
あなたが「3つの別々のトレードを持っている」と思っているとき、実際には「1つの賭けを3倍のサイズで持っている」 ことがある。 ドル円ロング・ユロドルショート・ゴールドショートは、見た目は別ペアだが、中身は「ドル高に賭けている」 というたった1つの方向かもしれない。相関したポジションは、リスクが独立に足し算されず、 合算(または相殺)される。だから守りの管理単位は、トレード1本ではなく口座全体のヒート(実効リスク)だ。
第20章で「1トレードのサイズ」を、第21章で「テールで死なないレバ上限」を決めた。本章はそれを口座全体へ拡張する。 覚えるのは、たった一個の関係だ。
2ポジを同時に持つときの実効リスク(合算)
実効リスク² = r1² + r2² + 2 × ρ × r1 × r2
↑
ρ = 相関係数(−1〜+1)
・ρ = +1(完全同方向)→ 実効リスク = r1 + r2(まるごと合算=最悪)
・ρ = 0(無相関) → 実効リスク = √(r1² + r2²)(分散が効く)
・ρ = −1(完全逆方向)→ 実効リスク = |r1 − r2|(相殺=ヘッジ)
この 2 × ρ × r1 × r2 の項が、本章の全て。相関がプラスの方向にポジを重ねると、リスクは
「足し算より大きく」効いてくる。 順に解剖する。
01相関すると、なぜリスクが「合算」されるのか
第20章では「1トレード=口座の1〜2%」と決めた。では、それぞれ1%リスクのポジを3つ持てば、合計リスクは3%——とは限らない。 ポジ同士が相関していると、話が変わる。
ドルが急落すれば、この3つは同時に逆行する。各1%のつもりでも、悪い日には3%が一斉に削られる。逆に独立した (無相関の)3つなら、ある日に全部が同時に外れる確率は低く、ならされる。これが「分散」の正体であり、相関はその 分散を殺す。
| 持ち方 | 見た目のリスク | 実際に晒しているリスク | 起きること |
|---|---|---|---|
| 強い同方向の相関ポジ×3(各1%) | 「3%」と錯覚 | ほぼ 3%が一体で動く | 悪い日に3つ同時被弾。実質「1つの大きな賭け」 |
| 無相関のポジ×3(各1%) | 3% | √(1²+1²+1²) ≒ 1.7% | 同時被弾しにくく、ならされる |
| 逆相関のポジ(ヘッジ) | — | 相殺されて縮む | 守りには効くが、利益も相殺し得る |
02「ドル要因クラスタ」――同じ1つに賭けているペア群
なぜドル円・ユロドル・ゴールドが連動するのか。第1章の「通貨は2国の引き算」を思い出す。主要ペアの多くは片側にドルを含む。 だから「ドルの強弱」という共通因子が、複数ペアを同時に動かす。本シリーズの地図(5ドライバー圧力差)でいえば、これは学術派の Dollar ファクター(Lustig-Verdelhanの5ファクターの1つ)に対応する。
| 「束」になりやすい例 | 共通因子 | 注意 |
|---|---|---|
| USD/JPY ロング + EUR/USD ショート + XAU/USD ショート | ドル高 | 実体は1方向。合算ヒートが膨らむ |
| AUD/USD + NZD/USD + 新興国通貨 ロング | リスクオン/コモディティ | 危機時に同時崩壊(キャリー巻き戻し、第21章) |
| EUR/USD + GBP/USD ロング | 対ドルの欧州通貨 | 半ば同じ賭けになりがち |
ここで初心者が陥りやすい錯覚を一つ潰しておく。「ペアを分散すればリスクが下がる」という思い込みだ。分散がリスクを 下げるのは、ポジ同士が独立(無相関)なときだけである。同じドル要因の束を5ペアに広げても、それは「分散」ではなく 「同じ賭けを5口に分けただけ」——むしろ取引コスト(第1章のスプレッド失血)が5倍かかるぶん不利になる。本数を増やすことと、 独立した賭けを増やすことは、まったくの別物だ。本当の分散とは、異なる要因に賭けることを指す。たとえばドル要因の 束に、リスクオン・オフとは別の論理(金利カーブの形、特定国の固有材料など)で動くポジを足して初めて、束の数=独立した賭けの数が増える。
ただし相関は固定値ではない。第9章で見たとおり、相関はレジームで壊れる。平時は無相関に見えたペアが、危機時には
一斉に同方向へ振れる(相関が1に近づく)。当デスクの risk_regime / curve_state が転換した局面では、
過去の相関を鵜呑みにしない——これは§5のデスク独自部分で扱う。
03管理単位は「口座全体のヒート」――メーターで見る
ここが本章の実装の核。トレードごとのリスク%(第20章)を、口座全体で合計したものが「ヒート(heat)」=実効リスクだ。 守りの主役は個々のトレードでなく、このメーターになる。
注意は1点。素朴に各ポジのリスク%を足すだけだと、相関を無視している。正しくは——
素朴な合算(相関無視・上振れ注意):
ヒート_naive = Σ 各ポジのリスク%
相関を入れた実効ヒート(2ポジ例):
ヒート_eff = √( r1² + r2² + 2·ρ·r1·r2 )
・同方向の相関(ρ>0)が強いほど、ヒート_eff は naive に近づく
→ 「束」のときは素朴合算で見るのが安全寄り
・無相関(ρ≈0)なら、ヒート_eff < naive(分散が効く)
個人版の実務では、安全側に倒して「相関の高い束は素朴に合算」「無相関は分散を少し認める」で十分だ。精緻な 共分散行列を毎回計算する必要はない。重要なのは「束を1つの賭けとして合算で見る」習慣そのもの。
| 見方 | やること | 長所/短所 |
|---|---|---|
| 素朴合算(推奨の出発点) | 全ポジのリスク%を単純に足す | 安全寄り。相関の束を見逃さない/分散の恩恵を過小評価 |
| 束ごとに合算 | 同クラスタ(ドル要因等)はまとめて1ポジ扱い | 実体に近い。クラスタの定義が要る |
| 共分散で実効計算 | ρ入りの数式/行列で算出 | 最も正確/推定誤差とレジーム変化に脆い(過信注意) |
04相関行列で「束」を可視化する
自分の保有候補が「いくつの独立した賭けか」を見るには、相関行列(ペア同士の相関係数の表)を一度作るとよい。値はFREDや 価格データから自分で計算できる(直近1〜2年の日次リターンの相関係数)。下はイメージ(数値は例・要実測)。
| 相関(例) | USD/JPY | EUR/USD | XAU/USD | AUD/USD |
|---|---|---|---|---|
| USD/JPY | 1.00 | −0.6 | −0.5 | −0.3 |
| EUR/USD | −0.6 | 1.00 | +0.4 | +0.6 |
| XAU/USD | −0.5 | +0.4 | 1.00 | +0.3 |
| AUD/USD | −0.3 | +0.6 | +0.3 | 1.00 |
読み方の例:USD/JPY と EUR/USD は −0.6(強い逆相関)。だから「USD/JPYロング+EUR/USDショート」は 同じ向き(ドル高)の賭けを二重に持っていることになる(逆相関ペアで反対売買=同方向化)。一方で AUD/USD と EUR/USD は +0.6——両方ロングなら「リスクオン」を二重がけしている。
| 閾値の目安(絶対値) | 解釈 | 守りの扱い |
|---|---|---|
| |ρ| ≥ 0.7 | 強い相関=ほぼ同一の賭け | 束として1ポジに合算。重複させない |
| 0.4 ≤ |ρ| < 0.7 | 中程度。レジームで束になりやすい | 合算寄りで警戒。合計ヒートで管理 |
| |ρ| < 0.4 | 弱い/無相関 | ある程度の分散を認めてよい |
05当デスクはどうしているか ― Portfolio Kelly と、個人版の簡易化【独】
ここが「ここでしか読めない」部分。当デスクは /desk/usdjpy で6ペアを同時に扱う ポートフォリオ最適化(Portfolio Kelly 系)を行っている。各ペアの期待リターン・ボラティリティ・相関 (共分散行列)を入力に、口座全体のリスク予算の中で各ペアの配分を解く——つまり「相関を明示的に式へ入れて、束の 重複を機械的に削る」装置だ。
ただし誠実に言う。これは個人がそのまま真似するものではない。
| 観点 | デスク(Portfolio Kelly) | 個人版(簡易) |
|---|---|---|
| 相関の扱い | 共分散行列で明示的に最適化 | 相関行列を一度見て束を避けるだけ |
| 入力の脆さ | 期待値・相関の推定誤差に極めて敏感(誤差最大化器とも呼ばれる) | 推定誤差の影響を受けにくい(保守的) |
| Kellyのサイズ | 理論Kellyは過大になりがち→分数Kelly(1/4〜1/2)で抑制 | そもそも第20章の1〜2%固定で十分 |
| レジーム変化 | risk_regime/curve_state で相関の崩れを監視 | 危機時は相関≈1と想定し合計ヒートを締める |
当デスクの Portfolio Sharpe は in-sample 0.81(OoS は 0.4〜0.6 を想定)。この差が示すのは、「最適化は 過去データに当てはめると綺麗に見えるが、前向き(OoS)では推定誤差ぶん必ず劣化する」という現実だ。相関やリターンの 推定値を信じすぎた最適化ほど、本番で崩れる。 だから——
これは第20章(1トレードのサイズ)・第21章(テールで死なない)を口座全体へ拡張したもの。サイズ→テール→ ポートフォリオは、すべて「生存」という一つのメタ目的の三段構えだ。
体験 ― 今すぐ手を動かす
読んで終わりにしない。自分の保有候補で「いくつの独立した賭けか」を数えるのがこの章の体験だ。
① 保有候補の相関を確認し、束に合算する
直近1〜2年の日次リターンで相関係数を出す(FRED/価格データ)。同じ向きに賭けている束を1つにまとめる。
| 保有候補ポジ | 方向 | リスク% | 同じ束(要因)か | 束ID |
|---|---|---|---|---|
| 例)USD/JPY | ロング | 1.0% | ドル高 | A |
| 例)EUR/USD | ショート | 1.0% | ドル高 | A |
| 例)XAU/USD | ショート | 1.0% | ドル高 | A |
| ____ | ____ | ___% | ____ | __ |
| ____ | ____ | ___% | ____ | __ |
→ 束A の合算リスク = 1.0 + 1.0 + 1.0 = 3.0%(同方向の相関は素朴合算で見る)。「3ポジ」ではなく 「ドル高に3%の1賭け」。これが見えた瞬間が、この章の達成点。
② 口座全体のヒートを集計する(メーター記入式)
口座ヒート集計
束A(____要因)の合算 = ____%
束B(____要因)の合算 = ____%
無相関の単独ポジ = ____%
──────────────────────
実効ヒート合計 = ____% ←これが「同時に晒している実効リスク」
設定したヒート上限 = ____% (例:6%)
余力(上限 − 現在) = ____%
③ ヒート上限の記入式(ポートフォリオ・リスク上限)
| 記入欄 | あなたの値 |
|---|---|
| 1トレードのリスク%(第20章) | ____% |
| 口座ヒート上限(同時合計) | ____% |
| 1つの「束(要因)」に許す上限 | ____% |
| 危機レジーム時の上限(締める) | ____% |
| 上限超過時のルール(新規停止/既存を削る) | ____ |
アクション ― 次の一歩
① 相関行列を1枚作る。自分が触る5〜8ペア+ゴールド等について、直近1〜2年の日次リターンの相関係数を計算 (FRED/価格データ)。|ρ|≥0.7 を強い束として色分けする。これが「口座にいくつ独立した賭けがあるか」の地図になる。
② ポートフォリオ・リスク上限ルールを言語化して固定する(下表)。数値で決め、後から相場に合わせて 緩めない(第16章の「凍結」と同じ規律)。
| ルール項目 | 設定値(記入) |
|---|---|
| 口座ヒート上限(同時に晒す合計%) | ____% |
| 1要因(束)に許す上限% | ____% |
| 強い相関(|ρ|≥0.7)の重複 | 原則建てない/合算で1ポジ扱い |
| 危機レジーム時の上限引き下げ | ____%(相関≈1想定) |
| 上限超過時の対応 | 新規停止 + ____ |
③ 当デスクのレジームを参照する:/desk/usdjpy の risk_regime/
curve_state が転換したら、過去の相関は当てにせず合計ヒートを締める。当落でなく「今は相関が
束になりやすい局面か」だけを読む習慣をつける。
この章の「相関で束になるペア群」を、いまの市場で見てみよう。クロスアセットでは、ドル円・ユロドル・金などの 60日ローリング相関とβサーフェスを毎営業日ライブで出している。当落でなく「いま、どのペアが同じ要因で束になっているか」を 読む練習に使ってほしい。
→ クロスアセットを見る